「共同注意」「三項関係」と言う言葉を聞いたことはあるでしょうか。視線の合いにくさやコミュニケーションの苦手さを調べているとよく出会う言葉です。
言葉の発達や社会性の発達にとっても大切だけど、つい見逃されがちな共同注意について解説です。
MENU
三項関係と共同注意
−二項関係と三項関係
−共同注意の種類
共同注意と言語獲得
−自閉スペクトラム障と共同注意の獲得
−言語獲得のプロセスと視線
共同注意を育む関わり
−二項関係を大切に育もう
−子どものペースで遊ぼう
共同注意の専門的なトレーニング
三項関係と共同注意は似たような意味で捉えがちですが少し違います。
二項関係と三項関係
三項関係とは『私とあなたと第三の物』を同時に認識する力のこと。生活の中では『子どもとお母さんが一緒に積み木で遊ぶ』『お母さんが見て!と言うと子どもが注目する』等が三項関係の成立です。
そして三項関係の前の段階が二項関係。『私とあなた』『私と物』を認識する力のことです。生活の中では『子どもが積み木に集中してお母さんの事が見えていない』『子どもがお母さんと遊ぶと積み木のことを忘れてしまう』などが二項関係での認識です。
ここでポイントが、三項関係の対比として二項関係説明をするときに『私と物』の関係に『あなた』が認識できないことを説明されがちですが、『私とあなた』人と人の関係も立派な二項関係です。
共同注意の種類
共同注意とは三項関係を認識できるようになった次のステップで獲得する力で、同時に認識している相手と意図や思いを共有する力です。
共同注意に関連する行動は6つに分けて報告されています。
①他者意図の理解
大人が指をさしたり視線を向けるという行動を見て、意図を理解し視線を向ける
②提示・手渡し
「ちょうだい」と言われたり、自発的に渡したいと思い、物を大人に渡して共有する
③指さしの算出
子どもが自発的に行う指さし行動で要求や興味を大人に伝えたり、大人からの問いかけに応答する
④社会的参照
大人や子どもが指さしをした後、指の大人の顔を交互に凝視し意図の確認や催促、共感を示す
⑤遊び・表象
おもちゃの仕組みを理解して遊んだり、大人と一緒にふり遊び(コップで飲むふりなど)を楽しむ
⑥向社会的行動
いたがる大人を見て心配したり、いたわり慰める行動をとる
※共同注意行動の産出時期(大神,2002)参照
自閉スペクトラム障と共同注意の獲得
自閉スペクトラム障の特徴として「視線の合いにくさ」が挙げられますが、大切なのは視線を合わせることでしょうか?
定型発達児や全般的な発達遅滞児と比較して、共同注意のスキルだけで自閉スペクトラム障の子どもをほとんど分類できるという研究があります。つまり視線を介して他者意図を理解したり、社会的参照を行う共同注意に課題があるといえます。
言語獲得のプロセスと視線
先ほどの研究では、自閉スペクトラム障の子どもの中でも共同注意のスキルが高いほど言語機能が高いことも報告されています。これを言語獲得のプロセスから考えてみます。
子どもが新しい言葉を聞いたとき、それは単なる音声記号でしかありません。何度も同じ音声を聞きながら、話している人の行動や視線、その場にあるものをみて物と名称を紐づけていきます。
例えば、お母さんと車のおもちゃで遊んでいて「くるま」と言う音声を聞きます。この時、このおもちゃは「くるま」と言う名前だと知ります。そして別の日の散歩中、走っている車をみて「車が走っているね」と聞きます。子どもは母の視線の先にある車を見て、あの乗り物は「くるま」だと知ります。そして、「くるま」とはおもちゃの名前ではなく、タイヤがついた特定のかたちの物を示すことを知ります。
この例の中では母親が「車」と言いながら示しているものに視線を向ける、母の視線を追って母が見ているものを認識すると言う共同注意のスキルが必要です。このスキルが獲得されていないと「くるま」が単なる音声記号となってしまうのです。
ここまでのポイント
三項関係は「私とあなたと物」を同時に認識する力
共同注意は同時に認識した相手と思いを共有する力
共同注意の関連行動では相手の指さした物や相手の顔を凝視する行動が見られる
大人が指した物や大人の視線を追いながら音声を聞くことで、音声に意味づけされ言語が獲得される
自閉スペクトラム障では共同注意の獲得に課題があるため、視線の合いにくさを指摘されることが多い
ここまでの話で、もしも「うちの子視線が合いにくい」「共同注意が苦手かも」と思った方。どうやったら共同注意が身に付くの?と疑問に思われていると思います。
「こっちをみて!」と言って視線が合わせられたり、「これをみて!」と言うだけで見てくれるのであれば保護者も支援者も悩みません。結論としてはすぐに共同注意が獲得できるトレーニングは残念ながらありません。日々の関わりをコツコツ積み上げていきましょう。
二項関係を大切に育もう
前述の通り二項関係は三項関係を獲得する前ステップです。共同注意や三項関係の理解がまだ難しいステップでは、二項関係を大切に育てていきましょう。特に育みたい力は『私とあなた』の二項関係。スキンシップ遊びを始め、いないいないばぁやまてまて遊びなどから大切に育みましょう。
子どものペースで遊ぼう
おもちゃにはそれぞれ使い方があるので大人はついつい正しい使い方で遊びがちです。しかし、おもちゃの仕組みを理解して遊ぶ事が共同注意の関係行動にあるように、三項関係の理解が難しい段階では一見無意味に思える使い方をすることがあるかもしれません。積み木を積むだけ、車のタイヤを回すだけ。そんな行動にも子どもなりの楽しさがあるのかもしれませんね。まずはその楽しさを共有してみましょう。
療育など専門的な視点で共同注意のトレーニングをしている事もあります。方法は子供に合わせて様々ですが、アメリカカリフォルニア大学の博士が研究している『JASPER』と言うトレーニングについての書籍が2025年7月に日本語翻訳され刊行されました。
日本でもまた新たな練習方法が確立されていくと良いですね。