口腔筋機能療法を取り入れた側音化構音の訓練方法を解説【指導者向け】
お家でできる練習もご紹介

はじめに
本記事は側音化構音の訓練方法について解説し、自宅で取り組める練習も一部紹介いたします。主には臨床や教育現場で側音化構音の訓練を行う指導者向けのもので、決して保護者の独学で構音訓練を行うことを推奨するものではありません。困っていることがあれば市町村の発達相談や近隣の支援センターなど専門機関へ相談することを推奨します。

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側音化構音について
 −側音化構音が生じる理由
 −側音化構音の特徴
 −側音化構音の訓練開始の目安

側音化構音の訓練について
 −構音訓練の基本的な進め方
 −口腔筋機能療法を構音訓練
 −舌の脱力練習
 −舌のコントロール練習
 −真ん中から息を出す練習
 −各ターゲット音の練習

側音化構音について

側音化構音が生じる理由
側音化構音は舌が左右どちらかに偏る事で、発音する時の呼気が一側を通るために歪んで聞こえる構音障害です。舌の癖と言われることも多いですが、舌先や舌の縁の筋力が弱いために舌の中央付近が口蓋に接地してしまったり、舌を中心で安定させる調整が苦手なことによって生じていると考えられています。

側音化構音の特徴
い列(いきしちにひり)に多い
発音するときに口角や下顎を左右どちらかに引く
「き」「ち」に近い音に掠れたりこもって聞こえる
舌の先や横が口蓋(上顎)に付いたまま発音する

側音化構音の訓練開始の目安
側音化構音はその重症度により聴覚的印象が異なります。また、舌のコントロールの未熟さが影響しているため、口腔器官の運動が未熟なままターゲット音の練習を始めると悪化してしまう症例もあります。そのため訓練開始の適応を丁寧に判断する必要があります。

  • 構音の歪みによる聞き取りにくさが会話に影響している
    構音障害を指摘されるなど人間関係に影響を及ぼしている
  • 音韻認識が育ち構音の誤りについて自覚がある
    着席して指示を聞き課題に取り組める(30分程度)
  • 舌の脱力が中心で維持できる
    舌先を出しい位置で保持できる

まず、重要なことは構音障害の有無ではなくその構音障害が障害となっているかという点です。特に側音化構音は軽度の場合、構音の歪みがあっても違和感程度に留まることは少なくありません。構音の歪みが聞き取りにくさに繋がり、相手に言いたいことが伝わらないなど会話に影響を与えたり、歪みによる違和感や聞き取りにくさを周囲に指摘され本人が気にしている場合には訓練開始を検討します。反対に、検査によって側音化構音が認められても軽度であり明瞭度や自然度に影響が少ない場合は、様子観察としても良いでしょう。
また、前述にもあるように舌の緊張のコントロールが未熟なまま構音訓練を開始してしまうと効果が得られにくく悪化してしまう事もあります。舌の脱力や保持が難しい場合は口腔器官の運動から取り組むとよいでしょう。構音訓練開始の目安となる音韻認識の獲得と課題への取り組みができるかについても確認しておきましょう。

側音化構音の訓練について

構音訓練の基本的な進め方
構音訓練で発音が難しい音の練習に取り組む場合、一般的には単音(1音)から始めます。単音が発音できるようになれば他の音とつなげて音節(2〜3音)でも正しく発音出来ることを目指します。
ターゲット音が「さ」の場合
あ・さ い・さ う・さ え・さ お・さ

音節でも正しく発音出来るようになれば、ターゲット音を含む単音→短文→文書と徐々に長くしていきます。
※より詳細な進め方は関連記事から

口腔筋機能療法と構音訓練
口腔筋機能療法は歯列不正の原因となる舌突出癖や咬合癖など正常ではない筋力の使い方を改善するためのトレーニングで、歯科医師や歯科衛生士が専門で行います。頬や口唇、舌の筋力をコントロールしたり、スポット(上あごのふくらみの少し後ろ)と呼ばれる舌の正しい位置に舌を置き安定させることで口腔環境を整えます。もともと構音訓練のための治療ではありませんが、口腔筋発達機能不全が原因で構音障害が生じている症例も少なくなく、口腔筋機能療法により発音の改善が期待できる場合があります。
今回はこの口腔筋機能療法の一部を舌の体操に取り入れて側音化構音の練習を行う方法を紹介します。

舌の脱力練習
まずは舌の力を抜いて平にし、下唇に少し接地する位置で10秒間保持(動かないように)してみましょう。

この時、以下のようにならないように注意します
※舌に力が入り尖ってしまう
※舌縁に力が入る・波打つ
※力は抜けているが正中で保持できずに揺らいでしまう
※舌の中心付近に力が入ったり舌先を巻き込んでしまう





力を抜いた状態を保持することが難しい時は、舌圧子(自宅であれば木のスプーンなど)で舌先を軽くタッチして支えるように補助してみましょう。力が抜ければ補助を離し、力が入ったり揺らぎがあるときには補助しながら、少しずつ補助の量を減らしていきます。鏡を見ながら自己フィードバックしてもよいでしょう。

舌のコントロール練習
①舌の力を抜いて平らにした状態から、力を入れて細く鋭くします。その後、また力を抜いて平らにします。この時、前記同様に波打ったり揺らいだりしないように注意しましょう。これを繰り返し、力を入れたり抜いたりをスムーズにコントロールできるようにします。


②上前歯の裏、上顎(口蓋)につながるところに少し膨らんだ部分があります(スポット)。ここに、舌の先を付けて保持します。そのまま舌全体を上顎(口蓋)につけて舌の裏の筋をピンと伸ばしましょう。


ここまでの2つの舌の体操は自宅でも取り組んでみても良いでしょう。次からの発音の練習は丁寧に進捗を確認しながら専門家の指導のもと行いましょう。

真ん中から息を出す練習
舌を脱力しして保持します。そのまま「えー」と声を出してみましょう。この時、舌が波打ったり揺らいだり、舌に力が入らない様に気をつけましょう。「えー」が安定して言えたら「えーいー」「うーいー」 と母音をゆっくり繋げます。「い」 のときに舌に力が入ったり、口角を引かないように気をつけましょう。「い」のときに舌に力が入ったり口角を引いてしまうときは、舌の力を抜く練習から「えー」と声を出す練習までを丁寧に繰り返し、舌の脱力と保持を安定できるようになってから再度「い」の練習をしましょう。

各ターゲット音の練習
舌の力を抜いて平らにしたまま「あーいー」「えーいー」など「い」の音が言えることを確認しましょう。この状態を基本の形とします。

舌の力を抜いて平らにし基本の形を作ります。そのまま軽く口を閉じて息を通し摩擦音を作ります。『ナイショのしー』をイメージしてください。この時歯が舌に当たっても良いですが、「舌を噛んで」と子供に伝えると癖づいてしまいやすいので注意しましょう。息を通して摩擦音を作っても舌が脱力したまま平らに保持できていれば、そのまま「いー」と声を出して「し」を導きます。
「し」の発音が単音以上で出来たら「ち」に進みます。舌の力を抜いて平らにし基本の形で「し」を発音します。そのまま舌を少し歯茎で噛んで息を止めてから発音し「ち」を導きます。この時、舌を歯で強く噛む癖がついてしまうと会話に汎化する段階で障壁となるため軽く歯茎で噛むこと丁寧に指導しましょう。「し」と時と同様に常に舌は脱力したまま平らに保持できていることを確認します。
「ち」の発音が単音以上で出来たら「き」に進みます。「く」が綺麗に発音できている場合「き」は「く」から導きましょう。これまでと同様に舌は力を抜いて平にし基本の形を作り、そのまま「く」と発音します。舌の基本の形を保ったまま「く」が言えるようになったら「くい」と「い」をつなげて、徐々に間隔を狭くし「き」を導きます。
舌の力を抜いて平らにし基本の形を作ります。そのまま舌を少し歯茎で噛んで鼻から「んー」という音を出しましょう。基本の形を保ったまま「んー」が言えたら、そのまま口を開けて「い」を発音し「に」を導きます。※「に」は他の音の進捗に関わらず取り組んで良いでしょう。
「に」の発音が単音以上で出来たら「り」に進みます。舌の先を歯の裏の膨らんだ部分(スポット)に付けて声をだします(出しやすい声で)。舌がスポットから離れずに声を出せたら、舌を離しながら「い」を発音し「り」を導きます。ら行は舌を丸めて巻き舌の様にするイメージを持ちがちですが、実際には舌先を歯の裏に当てて声を出す程度でよいです。
他のい列音が正しく発音出来たら取り組んで良いでしょう。他のい列音で舌の偏りなく発音出来るようになっていれば自然と改善している場合もあります。
舌の力を抜いて平にし基本の形を作ります。そのまま大人が「ひー」と聞かせて真似させましょう(聴覚刺激法)。とても単純なようですが、ここまでの練習で
舌を舌を安定させること
摩擦音を作ること

を繰り返し練習していますので、自然と習得出来ることが多いです。難しい場合は以下を試します。
舌は力を抜いて平にし基本の形を作ります。軽く口をあけて「へー」と言いましょう。そのまま徐々に口を閉じていき、摩擦音(すーっと擦れるような音)が聞こえるくらい口を閉じて息を通せたら「い」を発音して「ひ」 を導きます。

これは単音(1音)を発音する練習方法です。それぞれ単音で正しく言えるようになったら構音訓練の基本的な進め方にそって徐々に長く発音出来るように進めてゆきましょう。初めは舌を安定させることが難しいのでとても長く時間を要するように感じるかもしれませんが、徐々に舌の使い方や筋力が身につくため2〜3音目を練習する頃に自然と他の音が言えるようになる事も多くあります。焦らず欲張らず、1つずつ丁寧に進めましょう。

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