はじめに
本記事は鼻咽腔構音の訓練方法について解説し、自宅で取り組める練習をご紹介いたします。自宅練習で改善が得られる場合もありますが、他の機能障害や発達障害が原因となることも多いため困っていることがあれば市町村の発達相談や近隣の支援センターなど専門機関へ相談することを推奨します。
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鼻咽腔構音について
−鼻咽腔構音が生じる理由
−鼻咽腔構音の特徴
−鼻咽腔閉鎖不全との違い
−鼻咽腔構音の訓練開始の目安
鼻咽腔構音の訓練について
−構音訓練の基本的な進め方
−系統的な口腔器官運動
−舌の脱力練習
−口から息を出す練習
−ターゲット音の練習
鼻咽腔構音が生じる理由
鼻咽腔構音は舌全体が上顎(口蓋)に接地したまま発音することで、呼気が鼻咽腔に流れてしまうことで日本語にはない発音となる構音障害です。鼻咽腔閉鎖不全や発達障害との関連があるとする文献もありますが、い列音、う列音、さ行、ざ行など発音時の口腔内の空間を狭めて維持する必要がある音によく見られる症状であることから、舌のより微細な運動が求められる音であるため、運動発達の遅れによる口腔器官運動の未熟さが影響していると考えられています。鼻咽腔構音は正常発達の中で話し始めの段階で一時的に聞かれることがある構音であり、これも話し始めでまだ口腔器官の運動が未熟であるためだと考えられます。
鼻咽腔構音の特徴
い列、う列、さ行、ざ行に多い
上記以外の音に頻繁する症例もある
「ん」「くん」と鼻から出る音に置き換わる
鼻咽腔構音以外の構音障害がない場合、比較的スムーズに改善し予後が良い倍が多い
正常発達の過程で見られることがある
鼻咽腔閉鎖不全との違い
鼻咽腔構音と名前が似ていて間違いやすいものに鼻咽腔閉鎖不全があります。通常、鼻音以外を発音するときには軟口蓋が挙上し咽頭と鼻腔の間を閉鎖して口腔内圧を高めます。鼻咽腔閉鎖不全では何らかの理由で鼻腔への通路が閉鎖せず呼気が鼻に抜けてしまう症状です。原因は口蓋裂が最も一般的ですが、咽頭が深い、軟口蓋が短い、軟口蓋の挙上筋が弱いなど様々です。名前は似ていますが鼻咽腔構音とは全く異なるものなので注意しましょう。
舌全体が上顎(口蓋)に接地したまま発音することで全ての呼気が鼻咽腔に流れてしまう |
舌の運動が原因であり口腔で生じている |
い列やう列音が「んー」「くん」と聞こえる |
何らかの理由で鼻腔への通路が閉鎖せず呼気の一部が鼻に抜けてしまう |
形態の異常や軟口蓋の挙上不全により生じている |
鼻音(な行、ま行)以外の音が鼻声の様に聞こえる開鼻声となる |
鼻咽腔構音の訓練開始の目安
側音化構音は成長の過程で自然に改善する症例が多い構音障害です。一時的に構音障害の訓練開始目安は4歳6ヶ月とされており、鼻咽腔構音はこれに準じて良いでしょう。4歳6ヶ月を過ぎても鼻咽腔構音が残る場合は訓練開始を検討します。しかし、前述のとおり運動発達が影響を及ぼしている場合があります。その可能性が疑われるときは、構音訓練ではなく運動療法の介入を早期に検討しても良いでしょう。
※一般的な構音訓練開始時期の詳細は関連記事から
構音訓練の基本的な進め方
構音訓練で発音が難しい音の練習に取り組む場合、一般的には単音(1音)から始めます。単音が発音できるようになれば他の音とつなげて音節(2〜3音)でも正しく発音出来ることを目指します。
ターゲット音が「さ」の場合
あ・さ い・さ う・さ え・さ お・さ
音節でも正しく発音出来るようになれば、ターゲット音を含む単音→短文→文書と徐々に長くしていきます。
※より詳細な進め方は関連記事から
系統的な口腔器官運動
構音訓練を開始する場合、舌や唇などの口腔器官の運動に取り組みます。これは口腔器官の筋力が未熟であったり協調運動が苦手なことが原因となっている場合が多いためです。
舌を前方に出す→戻す を繰り返す
舌先で口角を触る→反対の口角を触る を繰り返す
舌先で上唇を触る→下唇を触る を繰り返す
頬を膨らませる→凹ませる を繰り返す
舌で頬を内側から押す→反対の頬を押す を繰り返す
などがあります。
鼻咽腔構音の場合は口腔器官の運動が未熟であり微細な調整が難しいことが原因として考えられるため、系統的な口腔器官運動を実施しましょう。
舌の脱力練習
舌の脱力練習も構音訓練の基礎として必ず実施しましょう。
まずは舌の力を抜いて平らにし、下唇に少し接地する位置で10秒間保持(動かないように)してみましょう。
この時、以下のようにならないように注意します
※舌に力が入り尖ってしまう
※舌縁に力が入る・波打つ
※力は抜けているが正中で保持できずに揺らいでしまう
※舌の中心付近に力が入ったり舌先を巻き込んでしまう
力を抜いた状態を保持することが難しい時は、舌圧子(自宅であれば木のスプーンなど)で舌先を軽くタッチして支えるように補助してみましょう。力が抜ければ補助を離し、力が入ったり揺らぎがあるときには補助しながら、少しずつ補助の量を減らしていきます。鏡を見ながら自己フィードバックしてもよいでしょう。
口から息を出す練習
口を開けた状態で「い」を発音し、い列音を発音するときに口から息を出せるように導きます。
舌を脱力して保持します。そのまま「えー」と声を出してみましょう。この時、舌が波打ったり揺らいだり、舌に力が入らない様に気をつけましょう。「えー」が安定して言えたら「えーいー」 とゆっくり繋げます。「い」 のときに舌を噛んで「んー」とならないように気をつけます。
各ターゲット音の練習
鼻咽腔構音の場合、口から息を出す練習で「い」が言えたら他の音も関連して言えるようになる事も少なくありません。「い」の発音ができたあと単音→単語→短文と基本的な進め方で進められる場合は「い」の練習を行いましょう。
口から息を出す練習で「い」の発音が難しかったり、「い」が言えても他の音で鼻咽腔構音が残る場合は言えない音を1音ずつ練習していきます。
鼻咽腔構音の場合、口から出るべき呼気が鼻から出てしまうため、鼻への呼気の道を塞いでしまう方法が有効です。
鼻をつまむかノーズクリップのようなものがあればそれも良いです。鼻をつまみそのままターゲットとなる音を発音します。はじめは口から息を出せずに息が止まってしまう子どももいるかと思いますが、前述の口から息を出す練習と合わせて繰り返し行いましょう。